この記事の主な参照ソース
- テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(厚生労働省) — 中抜け時間の扱い・労使でのルール決め
- 法改正のポイント|育児休業制度特設サイト(厚生労働省) — 2025年施行の育児・介護休業法改正
- 令和6年度 テレワーク人口実態調査(国土交通省) — テレワーカーの割合と働き方の実態
- ファミリー・サポート・センター(こども家庭庁) — 地域の預かり援助の仕組み
午前10時、オンライン会議の真っ最中。ミュートを解除した瞬間、足元から「ママ、みてー!」。あわてて画面をオフにして、膝の上で子どもをあやしながら、片手でチャットに「後ほど確認します」と打つ——。
在宅勤務の日って、こんな場面の連続じゃありませんか。
通勤がない分ラクなはず、送り迎えにも間に合うはず。周りからは「家にいられていいね」と言われるのに、リモートワークの日ほど仕事も子育ても中途半端に感じて、夜中に残った仕事を片づけながらため息が出る。
先に結論を言うと、在宅勤務と子育ての両立がきついのは、あなたの要領が悪いからではありません。仕事と保育という2人分の役割を1人で同時にやろうとする設計そのものに無理があります。だから対処の方向は「もっと頑張る」ではなく、ルールを確認する・制度を使う・年齢に合わせて組み替えるの3つです。
「きつい」のは自然な結果。在宅勤務×子育ての構造を知る

国土交通省の令和6年度テレワーク人口実態調査では、雇用型就業者のうちテレワーカーの割合は全国で24.6%、首都圏では約4割の水準とされています。総務省の令和7年版情報通信白書でも、テレワークを導入している企業は47.3%(令和6年通信利用動向調査)。
同じ国交省の調査には、こんな傾向も出ています。
- コロナ禍を経て、週1〜4日のテレワーク(出社と組み合わせるハイブリッドワーク)が定着傾向
- テレワークを続けている人は、家事・育児・介護などの生活や趣味に充てる時間が増える傾向
- 継続したい人の希望頻度は週2日が最多で、7割以上は週1日以上の出社と組み合わせた働き方を希望
データの上では、在宅勤務は育児との両立に役立つ働き方です。厚生労働省のテレワークガイドラインも、テレワークを「育児や介護と仕事の両立の一助となる」働き方と位置づけていて、育休明けに短時間勤務と組み合わせる形も想定されています。
それなのに、なぜきついのか。
同じガイドラインが、答えの半分を書いてくれています。テレワークには仕事と生活の時間の区別が曖昧になり、生活時間の確保に支障が出るおそれがある——国が企業向けにはっきり認めている弱点です。家に仕事があるから子どもが寝たあとも際限なく働けてしまうし、勤務時間中には子どもの割り込みが入る。境界線が溶けるのは、性格の問題ではありません。
もう半分は単純な話で、乳幼児のお世話はそれ自体がフルタイムの仕事だからです。会議とおむつ替えを同時にこなせないのは当たり前で、「同時にやれている人」を前提に自分を責める必要はありません。
最初に確認。「子どもを見ながら働く」は会社のルール次第

勤務時間中に子どもを見ながら働いてよいかどうかは、法律で一律に決まっているのではなく、会社の就業規則や上司との合意で決まります。 預け先の確保を在宅勤務の条件にしている会社もあれば、事情に応じた中抜けを認めている会社もあり、扱いは本当にバラバラです。
厚生労働省のガイドラインは、テレワークを導入するときに労働時間管理の方法や「中抜け時間」の取り扱いをあらかじめ労使で話し合い、ルールとして決めておくことが重要だとしています。裏を返せば、ルールを確認してすり合わせてあれば、堂々と組み合わせられるということです。
中抜け時間(勤務の途中で子どものお世話などのために業務を離れる時間)について、ガイドラインが挙げている取り扱いはこうです。
| 会社の扱い | 中抜け時間はどうなるか |
|---|---|
| 把握する場合① | 休憩時間として扱い、そのぶん終業時刻を繰り下げる |
| 把握する場合② | 時間単位の年次有給休暇として扱う |
| 把握しない場合 | 始業から終業までを、休憩を除いて労働時間として扱う |
どのパターンになるかは会社の就業規則などで決めておくもの、とされています。確認するのは次の3点だけです。
- 就業規則・在宅勤務規程を読む — 「子どもの保育」や「中抜け」に関する記載があるか
- 上司・人事とすり合わせる — 保育園の呼び出しがあり得ること、対応の仕方を先に共有しておく
- 中抜けの精算方法を決めておく — 終業繰り下げか、時間単位の年休か、そもそも申告不要か
「聞いたら在宅勤務自体がダメと言われそう」という不安もあると思います。ただ、突発対応は隠すより先に共有するほうが信頼を守れます。いまは会社側にも、子育て中の社員の働き方を支える対応が法律で求められ始めています。
2025年の法改正で使える制度が増えた

2025年に育児・介護休業法が改正されて、「子育て×テレワーク」まわりの制度がかなり手厚くなりました。厚生労働省の育児休業制度特設サイトの内容を、子どもの年齢別に整理します。
| 子どもの年齢 | 制度 | 内容 | 施行 |
|---|---|---|---|
| 3歳未満 | テレワークの努力義務 | 子を養育する労働者がテレワーク等を選択できるよう措置を講ずることが、事業主の努力義務に。短時間勤務が難しい場合の代替措置にもテレワーク等が追加 | 2025年4月 |
| 3歳〜小学校就学前 | 柔軟な働き方を実現するための措置 | 「始業時刻等の変更」「テレワーク等(月10日以上)」「保育施設の設置運営等」「養育両立支援休暇(年10日以上)」「短時間勤務」の5つから会社が2つ以上を用意し、働く側が1つ選べるようにする義務 | 2025年10月 |
| 小学3年生修了まで | 子の看護等休暇 | 対象年齢が小学校就学前から小学3年生修了までに拡大。病気やけがに加えて、感染症に伴う学級閉鎖等や入園式・卒園式も取得事由に | 2025年4月 |
注意したいのは「努力義務」と「義務」の違いです。3歳未満のテレワークは努力義務なので、会社に必ず用意させられるわけではありません。一方、3歳から就学前の「柔軟な働き方を実現するための措置」は事業主の義務で、テレワーク等(月10日以上)が選択肢に入っていれば、それを選ぶのは働く側の権利です。
会社に聞くときは、「在宅で子どもを見たいんですけど…」とお願いベースで切り出すより、「改正育介法の柔軟な働き方の措置、うちは何が用意されていますか?」と制度の確認として聞くほうが話が早く進みます。聞かれた人事も、決まっている規程を示すだけなので答えやすいはずです。
学級閉鎖のたびに有休が溶けていた小学生の親にとって、子の看護等休暇の対象拡大は地味に効く変更です。取得の条件や日数は勤め先の規程で確認してください。
年齢別の現実的な工夫。乳児・幼児・小学生で戦い方は別物

「在宅勤務と子育ての両立」とひとくくりに言っても、0歳と5歳と小学2年生ではまったく別の競技です。
| 時期 | 子どもの状態 | 仕事の組み立て | 頼る先の例 |
|---|---|---|---|
| 乳児(0〜1歳ごろ) | 目が離せない。睡眠が細切れ | 預けていない時間のフルタイム稼働は前提にしない。睡眠中に集中作業、起きている時間は細切れタスク | 保育園、ファミリー・サポート・センター、自治体の預かり支援、夫婦の時間帯シフト |
| 幼児(1〜6歳ごろ) | 園に行けば日中は確保できるが、呼び出し・休園がある | 園にいる時間に会議と集中作業を寄せ、お迎え後は原則仕事を置く | 園、病児保育、子の看護等休暇、柔軟な働き方の措置 |
| 小学生 | 半日で帰る日や長期休みが多い。留守番は少しずつ可能 | 放課後の過ごし方をルール化。長期休みは前もって計画 | 学童保育、ファミリー・サポート・センター、子の看護等休暇(小3まで) |
乳児(0〜1歳ごろ)— 「見ながら働ける」を前提にしない
この時期にワンオペで赤ちゃんを見ながらフルタイム分の仕事をこなすのは、設計として破綻しています。できたとしても続きません。
現実的なのは、預けていない時間帯の成果を最初から少なく見積もることです。日中の会議は、パートナーが対応できる時間帯か、預けられる日に寄せられないか調整してみてください。
預け先は保育園だけではありません。こども家庭庁のファミリー・サポート・センター事業は、子育て中の人と援助したい人が会員になって地域で子どもの預かりなどを助け合う仕組みで、市町村が実施しています。早朝・夜間の緊急時の預かりや病児・病後児の預かりも目的に含まれます(提供内容は地域で異なるので市町村の窓口で確認を)。
幼児(1〜6歳ごろ)— 園にいる時間が主戦場
園に通い出すと、日中のまとまった時間が戻ってきます。原則は重い仕事は全部、子どもが園にいる時間に置く。お迎え後に仕事を残すと、夕方の「ごはん・お風呂・寝かしつけ」との衝突で毎日が消耗戦になります。
この時期特有の敵は突発です。発熱の呼び出し、感染症での休園。ここは根性ではなく仕組みで備えます。
- 呼び出し時にどちらが動くか、夫婦で「今日の担当」を朝に決めておく
- 休園日でも最低限回せる「持ち出しタスク」のリストを用意しておく
- 病児保育や子の看護等休暇など、使える制度を元気なうちに調べて登録しておく
家で見ながら働かざるを得ない日は、完璧を目指さないこと。午前と午後に「子どもと遊ぶだけの30分」を先に予定へ入れてしまうと、「かまって」の圧が下がって仕事の中断が減ることがあります。
小学生 — 「もう手がかからない」の罠
小学生になれば楽になる、と思っていたら、半日授業・長期休み・学級閉鎖のトリプルパンチが待っていた——というのは、先輩ワーママ・ワーパパがよく口にする展開です。
在宅勤務との組み合わせで効くのは、放課後のルール化です。帰宅後の流れ(手洗い→おやつ→宿題→自由時間)を紙に書いて貼り、「ドアにこのカードが掛かっているときは会議中」のような目で見て分かるサインを決める。口頭の「静かにしてて」より子どもは守りやすいです。
長期休みは、学童保育を軸に祖父母やファミリー・サポート・センターも組み合わせ、「誰が・いつ」を夏休み前にカレンダーへ落とし込みます。学級閉鎖で子の看護等休暇が使えるようになったこと(小学3年生修了まで)も、覚えておくと当日の朝に慌てません。
「子どもがいて集中できない」を減らす環境づくり

在宅ワークで子どもがいると集中できないのは、意志力の問題ではなく、視界と音と時間割の問題です。
場所。個室がなくても、机の向きを変えて子どもの遊びスペースが視界に入らないようにするだけで、注意の奪われ方が変わります。子ども側にも「あっちはお仕事の場所」という線引きが伝わります。
時間。集中が必要な仕事と会議は、子どもが確実にいない時間帯へ寄せる。夫婦ともに在宅の日は「午前は私が仕事優先・午後はあなた」と時間帯で担当をシフトすると、2人とも中途半端になる事態を防げます。出社日があるなら、対面が必要な仕事や込み入った会議を出社日にまとめる手も。
伝え方。幼児以上なら、「このタイマーが鳴るまでお仕事」「この帽子をかぶっているときは話しかけないで」のような、子どもの目に見える合図が効きます。終わったら必ず構う、を守れるかどうかで合図の信用が決まります。
やりがちだけど続かないNG例
- 夜中の作業で帳尻を合わせ続ける — ガイドラインが注意喚起するとおり、テレワークは生活時間との境界が曖昧になりがち。睡眠を削る運用は数週間で心身に返ってきます
- 子どもの昼寝を締切の当てにする — 寝ない日は必ず来ます。昼寝中の作業は「できたらラッキーの上積み」に
- 動画に頼った自分を責めて疲れる — 緊急時に映像の力を借りるのは在宅勤務家庭の現実です。責めるより「会議のときだけ」などルール化を
- 「子どもがいても大丈夫です」と安請け合いする — できる前提で仕事を受けると、破綻したときに信頼も削れます。突発があり得る前提を先に共有するほうが結果的に評価は安定します
限界サインと相談先。ひとりで抱えない線引き

工夫でしのげる段階を越えているサインもあります。
- 慢性的に睡眠が足りず、日中も頭が働かない
- 子どもの些細な行動に強い苛立ちが続く、涙が出る
- 仕事のミスや締切遅れが明らかに増えた
- 「自分が消えたい」と感じる瞬間がある
こうした状態が続くなら、スケジュール術の出番ではありません。負荷そのものを外に出す段階です。
会社側なら、上司・人事への業務量の相談や産業医面談。勤め先には子育て中の働き方を支える措置が求められるようになっています。地域側なら、市区町村の子育て支援窓口で預かり支援やファミリー・サポート・センターの利用を相談できます。体調の不調が続く場合は、かかりつけ医や自治体の保健師への相談も選択肢です。
「まだ大丈夫」と思っているうちに動くのが、いちばん安上がりです。預かりをお願いして半日眠るだけでも、見える景色は変わります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 在宅勤務中に子どもを見ながら働くのは違法ですか?
法律で一律に禁止・許可が決まっているわけではなく、会社の就業規則や労使の取り決めによります。厚生労働省のガイドラインも、中抜け時間などの扱いは労使で話し合って決めておくことが重要としています。まず就業規則と在宅勤務規程を確認し、上司・人事とすり合わせてください。
Q2. 子どもの世話で中抜けした時間の給料はどうなりますか?
会社の定めによります。ガイドラインでは、中抜けを把握する場合は「休憩として扱い終業時刻を繰り下げる」「時間単位の年次有給休暇にする」、把握しない場合は「始業から終業までを休憩を除き労働時間として扱う」が例示されています。自分の会社がどのパターンかを確認しておきましょう。
Q3. 3歳未満の子がいます。会社にテレワークを断られたら諦めるしかないですか?
3歳未満の子を育てる社員がテレワークを選べるようにすることは、2025年4月から事業主の努力義務とされています。強制はできませんが、会社が取り組むべき方向は法律で示されているので、人事に制度整備の予定を確認する価値はあります。子どもが3歳になれば、テレワーク等を含む「柔軟な働き方を実現するための措置」(2025年10月施行)の対象になります。
Q4. 学級閉鎖で小学生が家にいるとき、使える休暇はありますか?
2025年4月施行の改正で、子の看護等休暇は小学3年生修了までの子が対象になり、感染症に伴う学級閉鎖等も取得事由に加わりました。日数や賃金の扱いは会社の規程によるので、事前に確認しておくと当日慌てません。
Q5. 保育園に入れないまま在宅で働き続けるのは無理がありますか?
乳幼児をワンオペで見ながらのフルタイム稼働を長く続けるのは、現実的とは言いにくいです。預けていない時間の成果を少なく見積もり、ファミリー・サポート・センターや自治体の預かり支援、夫婦の時間帯シフトを組み合わせて「1人で全部」の状態を早めに崩してください。
Q6. 夫婦ともに在宅の日は、どう分担すればいいですか?
「午前は妻が仕事優先、午後は夫が仕事優先」のように時間帯で担当を分けるのが分かりやすい方法です。朝のうちにお互いの会議予定を共有し、外せない時間帯を先に押さえ合うと当日の押し付け合いを避けられます。
まとめ
- 在宅勤務と子育ての両立がきついのは仕事と保育を1人で同時にやる設計の問題。自分を責めない
- 子どもを見ながら働いてよいかは会社の就業規則と上司との合意次第。中抜けの扱いを先に確認する
- 2025年の育児・介護休業法改正で、3歳未満はテレワークが努力義務、3歳〜就学前は柔軟な働き方の措置が義務、子の看護等休暇は小3までに拡大
- 工夫は年齢別に別物。乳児は「見ながら働ける」を前提にせず、幼児は園にいる時間が主戦場、小学生は放課後と長期休みの設計
- 集中できない問題は視界・時間割・見える合図の環境で減らす
- 限界サインが出たら工夫ではなく会社・自治体・預かり支援に負荷を外へ出す
在宅勤務は、うまく設計すれば子育て世帯の強い味方です。ただしそれは「工夫すれば全部できる」という意味ではなく、削る・頼る・ずらすをセットにしたときの話。今日できる一歩は、就業規則の確認と、パートナーとの「今週の担当」のすり合わせです。
※本記事は医療アドバイスではありません。気になる症状がある場合は必ず医師に相談してください