
この記事の主な参照ソース
- 御家庭内での子どもの溺水事故に御注意ください!(消費者庁) — 事故100件の分析と防止ポイント
- こどもの不慮の事故の発生傾向と事故防止に向けた取組等(こども家庭庁) — 2020〜2024年の死因データ
- 水の危険は近くにあります、みんなで危険回避!(こども家庭庁) — 水深3cm、静かに溺れること
- 子どもをやけど事故から守る予防策とは?(東京都) — やけどの搬送データと浴室の予防策
医療機関から消費者庁・国民生活センターに寄せられた、14歳以下の子どもの溺水事故の情報は100件(令和3年5月まで)。そのうち74件、じつに74%が「家庭での入浴中」でした。海でもプールでもなく、毎日入っているあの浴室です。しかも家庭内の78件のうち51件(約7割)は、保護者が目を離している間に起きています。
……心当たりが浮かんだ方も多いと思います。シャンプーで目をつぶった数十秒。上の子に呼ばれて脱衣所に出た瞬間。宅配のインターホン。どれも「危ないことをした」という自覚がないまま通り過ぎていく時間です。
この記事は入浴の手順ではなく、「事故を起こさない環境と習慣」に絞ります。データ、年齢別のリスク、7つの対策、やけど、万一の手順の順に見ていきましょう。
データで見る、子どものお風呂の事故

こども家庭庁が人口動態調査をもとにまとめた資料では、直近5か年(2020年〜2024年)の子どもの不慮の事故の死因は「不慮の窒息」「交通事故」「不慮の溺死及び溺水」が上位を占めると説明されています。溺死・溺水の中身は、浴槽での溺水が最も多く、次いで海・川等の自然水域という順です。
年齢別に見ると、浴槽の存在感がはっきり出ます。
| 年齢 | 不慮の事故の死亡数(5年累計) | 溺水(浴槽内)の位置づけ |
|---|---|---|
| 0歳 | 303人 | 上位3位はすべて窒息。第1位は窒息(ベッド内)109人(36.0%) |
| 1歳 | 109人 | 溺水(浴槽内)18人(16.5%)。第1位の交通事故30人(27.5%)に次ぐ多さ(窒息〈食物の誤えん〉と同数) |
| 3歳 | 49人 | 溺水(浴槽内)3人(6.1%) |
| 5〜9歳 | 214人 | 溺水(自然水域)36人(16.8%)に続き、溺水(浴槽内)22人(10.3%) |
| 10〜14歳 | 241人 | 第2位が溺水(浴槽内)47人(19.5%)。第3位が溺水(自然水域)43人(17.8%) |
※こども家庭庁「こどもの不慮の事故の発生傾向と事故防止に向けた取組等」(2020〜2024年の累計)より
1歳のところで、交通事故の次に浴槽が来る。ここが核心です。
発生場所は、医療機関からの報告がくわしく教えてくれます。消費者庁が分析した溺水事故100件の内訳は、家庭での入浴中74件(74%)、海やプールなど18件(18%)、入浴時間外に浴室へ入って浴槽に転落4件(4%)、家庭外での入浴中4件(4%)。
けがの重さも軽くありません。家庭内の入浴中等の事故は、要入院41件・要通院16件・即日治療完了11件・治療を必要としない8件・死亡2件。半数以上が入院を必要とする事故でした。
なぜ「ちょっと目を離す」が危ないのか

「泣き声がしたら気づくはず」。ここが、いちばん書き換えたい前提です。
消費者庁の資料が引用している日本小児科学会小児救急委員会のアンケート調査では、「溺れかけた時に悲鳴や助けを求めるような声を出していましたか」という質問に、未回答13例を除く1,156名中1,000名(86.5%)が「出していなかったと思う」と答えています(「出していたと思う」は109名・9.4%)。
音についても同じ調査で、「バシャバシャ水しぶきを上げるなど音がしましたか」に対し、未回答29例を除く1,140名中387名(33.9%)が「音はほとんどしなかった」と回答。こども家庭庁も、溺水事故を経験した保護者の8割以上が「悲鳴や助けを求める声が聞こえなかった」と報告していることを紹介しています。
つまり、耳で気づく設計は成り立ちません。見ていないと分からない、が実際のところです。
水の量も、時間も、想像よりずっと少ない
「浅くしてあるから大丈夫」という感覚も、実際とはずれています。
- 消費者庁が分析した100件のうち、水の深さの言及があった中で最も浅かったものは約10cmでした。同庁は、水が鼻や口を覆う状況であれば溺水することを示唆していると説明しています
- こども家庭庁は、たった3cm以上の深さがあれば乳幼児は溺れる可能性があるとしています
- 消費者庁は、5分以上溺れてしまうと神経学的な後遺症を残す可能性があるとも記しています
時間の感覚も同じです。報告されている事故のひとつは、保護者が洗髪のため約1分間目を離している間に2歳の男の子が水没したもの。引き上げたときには反応がなく、呼吸が停止していました(平成27年3月、要入院)。
「目を離した」の中身を分解する
では、その「目を離した」51件は、どんな瞬間だったのか。消費者庁はここまで分解しています。
| 目を離した状況 | 件数 | 起きていること |
|---|---|---|
| 保護者の洗髪など | 16件 | 目をつぶる・音が聞こえない状態が数十秒続く |
| 子どもを残して浴室を出る | 16件 | タオルや着替えを取りに行く、電話に出る |
| 兄弟など子どもだけで入浴 | 7件 | 年上の子がいても、見守り役にはなれない |
| 他の子の対応 | 4件 | 上の子を洗う、呼ばれて振り向く |
| 保護者が入眠 | 1件 | 疲れて一緒に寝落ちする |
| 不明 | 7件 | — |
特別に不注意な行動はひとつもありません。全部、毎日のお風呂で普通に起きることです。だから「気をつける」では対策になりにくく、環境と手順を変える必要があります。
年齢で変わるリスク|歩けるようになると「自分で入ってしまう」

同じ「お風呂の事故」でも、危ない場面は成長とともに入れ替わります。こども家庭庁の事故防止ハンドブックでは、0〜5歳は入浴時の溺水、0〜2歳は浴槽への転落がリスクとして整理されています。
| 時期 | 起きやすいこと | 対策の重点 |
|---|---|---|
| 首すわり前 | 保護者が体を拭いている間の転落。お風呂の蓋の上に乗せていて浴槽に落ちる事故が報告されています | 蓋の上に置かない。床に安全な待機場所を作る |
| おすわり〜歩き始め | 浴槽への転落。こども家庭庁は0〜2歳のリスクとして挙げています | 大人が体を洗う間は湯船の外へ。浴槽から出す判断を早めに |
| 1〜2歳 | 動きが速くなる時期。目を離した事故の割合は1歳で最も高いとされています | 残し湯をしない。洗髪中は必ず浴槽から出す |
| 3歳以上 | 歩けるようになると、保護者がいないときに自分で浴室へ入ってしまう。入浴時間外に浴槽へ転落した事例が4件報告されています | 浴室のドアを施錠・チャイルドロック。浴室に入れない仕組みを作る |
ここがポイントなんですが、歩けるようになった時点でリスクの性質が変わります。それまでは「入浴中の見守り」の話。以降は「入浴していない時間の浴室」が問題になるんですね。
実際、消費者庁が挙げている事例には、昨晩の残り湯がたまっている浴槽に1歳の男の子が浮かんでいるところを発見されたものがあります。浴室までのドアに柵はなく、浴室のドアは壊れていました(平成24年10月、要入院)。同庁は、水を抜く習慣とゲート・鍵の両方を求めています。
今日から変えられる7つの対策

公的機関が挙げる対策を、家で実行できる形に並べ替えました。どれも道具を買い足すより先に、手順を固定するタイプです。
| 対策 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ① 残し湯をしない | 子どもが小さいうちは、入浴後に浴槽の水を抜くことを習慣にする | 消費者庁/こども家庭庁 |
| ② 浴室に入れない仕組み | 入浴後や湯はり中は、ベビーゲートや浴室ドアの外鍵で近づけないようにする | 消費者庁/こども家庭庁 |
| ③ 洗髪中は浴槽から出す | 大人が髪を洗うときは、子どもを浴槽の外へ。浮き輪の使用中でも事故は起きている | 消費者庁 |
| ④ 順番を固定する | 子どもは大人の後に浴室へ入れ、上がるときは子どもを先に出す | 消費者庁 |
| ⑤ 浴室に一人にしない | 少しの時間でも一人にしない。年上の子との共浴でも必ず大人が付き添う | こども家庭庁 |
| ⑥ 風呂ふたに乗せない | 蓋が外れたりずれたりして浴槽内に転落する事故が起きている | 消費者庁/こども家庭庁 |
| ⑦ 浮き輪に見守りを任せない | 子ども用の浮き輪は救命用具ではなく、一人で使用する商品でもない | 消費者庁 |
⑦は補足が要ります。消費者庁は子ども用の浮き輪について、「腕の届く範囲で、万が一の時にすぐ助けられる状況でのみ使用してください」と書いています。実際の事例では、首に浮き輪をつけて浴槽に浮かべ、5分ほどして保護者が脱衣所から戻ると、0歳の男の子が浴槽の底に沈んでいました(平成25年12月、要入院)。
どうしても手が離せないときは 消費者庁は、目を離さざるを得ない場合の対策のひとつに「目を離している間は子どもと会話を続けること」を挙げ、入浴の際に複数の保護者が関わればより安全とも記しています。あくまで次善の策で、最善は浴槽から出すことです。
同じ発想は浴室の外にも効きます。使用後の洗濯機・洗面器・バケツに水をためたままにしない、洗濯機はチャイルドロック、便器の蓋は閉じる。「鼻と口が覆われる深さの水を家に放置しない」という一本の線です。
やけども、同じ浴室で起きています

浴室の事故は溺水だけではありません。東京都こどもセーフティプロジェクトが紹介する東京消防庁のデータでは、令和5年にやけどで救急搬送された1,282人のうち、0歳から4歳が342人と最も多く、全体の約3割を占めます。
同じ資料は、やけどの原因に浴槽のお湯、熱いシャワー、お湯の温度設定ミスを挙げ、乳幼児は皮膚が薄いため大人にとって低温でもリスクがあると説明しています。
「熱ければ子どもが自分で逃げるはず」という想定も、成り立ちにくいところがあります。日本熱傷学会は、低温やけどについて心地よく感じる程度の暖かい温度(44℃〜50℃)でも、長時間にわたり皮膚の同じ場所に接していると発生すると説明しており、50℃なら3分間の圧迫、42℃でも6時間接触すれば細胞が変化する、という記述もあります。
気をつけたい場面は、おおむね3つです。
- 給湯温度の設定 — 東京都の資料は予防策に「給湯器の事前温度調整」を挙げています。子どもが操作パネルに触れられるなら、設定を変えられない状態に
- シャワーの出し始め — 前に使った人の設定が残っています。子どもに向ける前に、必ず大人の手で確かめてから
- 追い焚きや高温たし湯のあと — 温度が変わった直後です。「さっき測ったから」ではなく、入れる前にもう一度
東京都の資料が挙げる浴室の予防策も、子どもを一人でお風呂に入れない・温度確認を習慣化する・給湯器の温度をあらかじめ調整するの3つ。溺水対策の「一人にしない」が、そのままやけど対策にもなっています。
やけどをしたときは、消費者庁は患部を流水で冷やし、医療機関を受診するよう案内しています。
万が一のときの手順と、受診の目安

手順を知っているかどうかで、動き出しの速さが変わります。消費者庁が示す対処法です。
- 浴槽から出し、平らな場所に寝かせる
- 大きな声で呼びかけて反応をみる
- 反応がなければ 119番通報をする
- 反応と呼吸がなければ、直ちに心肺蘇生(胸骨圧迫と人工呼吸)を開始する
- 応援を呼べるなら、その人に119番通報を頼む
- 携帯をハンズフリーに設定し、救急隊の指示に従う
その場の判断は救急隊や医師の指示が優先です。電話がつながったら、この記事ではなく通信指令員や救急隊の指示どおりに動いてください。
やってはいけないこと
消費者庁は、無理に水を吐かせないでくださいとはっきり書いています。胃の内容物で気道が塞がれて窒息する危険性があるためです。心肺蘇生中に水を吐いた場合は、顔を横に向けるとされています。
意識がある場合は、顔と体を横に向けて回復体位を取り、タオルなどで水気を拭いて包んで保温します。
なお、胸骨圧迫や人工呼吸のやり方は、文章を読んで身につくものではありません。救命講習は近くの消防署などで受講できます。総務省消防庁は「応急手当WEB講習」をオンラインで公開していて、普通救命講習編・上級救命講習編・はじめての応急手当編などがあります。一度受けておくと、いざというとき手が動きます。
「泣き出したから大丈夫」で終わらせない
見た目が回復しても、それで判断を終えないでください。消費者庁の事例では、心肺蘇生後に嘔吐して泣き始めた1歳の子も、救急要請している間に泣き出した0歳の子も、記録上は「要入院」です。反対に、2秒で引き上げた0歳の事例でも医療機関を受診しています。
判断に迷うときは、厚生労働省の子ども医療電話相談#8000へ。住んでいる都道府県の窓口につながり、看護師等の相談員から助言を受けられます。全国47都道府県で実施されていますが対応時間は都道府県で異なるので、地域の時間帯を今のうちに確認しておくと安心です。
反応がない、呼吸をしていないように見える——このときは、迷わず119番です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 湯船のお湯を浅くしておけば、少しの間なら目を離しても大丈夫ですか?
浅くすることは対策になりません。消費者庁が分析した100件のうち、水の深さの言及があった中で最も浅かったものは約10cm。こども家庭庁は3cm以上あれば乳幼児は溺れる可能性があるとしています。水量を減らすことと目を離さないことは、別々に両方必要です。
Q2. お風呂の残り湯を洗濯に使いたいのですが、抜かないとだめですか?
消費者庁とこども家庭庁は、子どもが小さいうちは入浴後に浴槽の水を抜くことを習慣にするよう呼びかけています。残り湯の浴槽に転落した事例も報告されています。どうしても使う場合は、浴室のドアに外鍵やチャイルドロックを付け、子どもが入れない状態を確実に作るのが前提です。
Q3. 上の子と一緒に入っていれば、下の子から少し目を離しても平気ですか?
こども家庭庁は、年上のこどもと一緒の入浴でも溺水事故が発生しているとして、必ず大人が付き添うよう呼びかけています。消費者庁の集計でも、兄弟など子どもだけで入浴していて起きた事故が7件。年上の子は見守り役にはなれない、と考えてください。
Q4. バスチェアや浮き輪を使えば、洗髪中も湯船に入れておけますか?
消費者庁は、大人が洗髪する際には子どもを浴槽から出すよう呼びかけ、浮き輪の使用中でも事故が発生しているとしています。こども家庭庁の資料にも同じ注意が。子ども用の浮き輪は救命用具ではないとされ、洗髪中の見守り代わりにはなりません。
Q5. お風呂の蓋の上で体を拭かせるのは危ないですか?
避けてください。消費者庁は、浴槽の蓋を半分開けてその上に子どもを置いたまま保護者が脱衣所で体を拭いていたときなどに、蓋がずれて浴槽内に転落した事故が起きていると報告しています。こども家庭庁も、浴槽の蓋の上にこどもを乗せないことを挙げています。
Q6. 給湯温度は何度に設定すればいいですか?
一律の数字は、住まいの給湯器や季節によって変わるためお伝えできません。東京都の資料では、給湯器の事前温度調整と温度確認の習慣化が挙げられています。日本熱傷学会は44℃〜50℃という「心地よく感じる程度」でも長時間の接触で低温やけどが起こると説明しているので、大人の感覚だけで判断しないことが大切です。
Q7. 一瞬顔がお湯につかっただけでも、受診したほうがいいですか?
迷ったら相談してください。消費者庁の事例には、2秒ほどで引き上げられた0歳の子が医療機関を受診し、異常はみられなかったケースがあります。一方で、泣き出したあとに入院となった事例も。判断に迷うときは#8000へ。反応がない、呼吸をしていないように見えるときは119番です。
まとめ
- 子どもの溺水事故100件のうち74件(74%)が家庭での入浴中。家庭内の78件では約7割が目を離している間
- 1歳の不慮の事故死因では、溺水(浴槽内)18人(16.5%)が交通事故に次ぐ多さ(2020〜2024年の累計)
- 声も音もしない。悲鳴を出さなかったという回答が86.5%、音がほとんどしなかったという回答が33.9%
- 水深10cmでも、3cmでも起こりうる。「浅いから大丈夫」は成立しない
- 対策は7つ。残し湯をしない/浴室に入れない仕組み/洗髪中は浴槽から出す/順番の固定/一人にしない/風呂ふたに乗せない/浮き輪に任せない
- 歩けるようになったら、危ないのは入浴していない時間の浴室。ドアの施錠が主役になる
- やけどは0〜4歳が救急搬送全体の約3割。給湯温度・シャワーの出し始め・追い焚き後を押さえる
- 万一のときは呼びかけ→反応がなければ119番。無理に水を吐かせない
お風呂の安全対策は、注意力を増やす話ではありません。栓を抜く、鍵をかける、順番を決める。この3つを固定してしまえば、疲れている日でも結果は同じになります。今晩、浴槽の栓を抜くところから。
※本記事は医療アドバイスではありません。気になる症状がある場合は必ず医師に相談してください