この記事の主な参照ソース
- 幼児期運動指針(文部科学省) — 幼児期の運動の考え方
- 幼児期運動指針 普及用パンフレット(文部科学省) — 毎日60分の目安
- 生活の場における暑さ指数について(環境省) — 子どもの高さでの暑さ指数
- 学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き(文部科学省) — 練習時の判断
「運動会の練習、いやだ」
9月の帰り道にこう言われて、どう返すのが正解なのか分からなくなったことはありませんか。無理させたくないけれど、休ませたら余計に行きにくくなる気もする。かけっこで最後になるのを気にしているのも、なんとなく伝わってくる。
わたしも上の子のときに「がんばれ」しか言えなくて、それが逆効果だったと後から気づきました。
文部科学省の「幼児期運動指針」は、幼児期の運動をどう考えるかについてかなりはっきりした方向を示しています。その方向を知っておくと、声かけの選択肢が増えます。
幼児期の運動は「勝つため」の練習ではない

文部科学省の幼児期運動指針は、幼児期を運動機能が急速に発達し、多様な動きを身に付けやすい時期と位置づけています。
そして運動については、適切に構成された環境の下で、幼児が自発的に取り組む様々な遊びを中心に体を動かすことを通して、生涯にわたって心身ともに健康的に生きるための基盤を培うことが必要と述べています。
時間の目安としては、毎日、合計60分以上が示されています。この数字の背景として、外遊びの時間が長い幼児ほど体力が高い傾向にあるが、4割を超える幼児の外遊びをする時間が一日1時間(60分)未満であるという調査結果が挙げられています。
ここで読み取っておきたいのは、指針が置いている軸が「自発的な遊び」と「多様な動き」であって、特定の種目の上達ではないところです。
つまり、かけっこで何位になるかは、幼児期の運動の目的として指針が挙げているものではありません。この前提を親の側が持っておくと、声かけの中身が変わります。
年齢別・練習期間の関わり方

同じ「運動会がいや」でも、年齢によって中身が違います。
| 年齢の目安 | この時期の様子 | 関わり方 |
|---|---|---|
| 3歳ごろ | 場面の変化そのものが負担。何をするか分かっていない不安 | 何をやるのかを具体的に説明する。できた動きを言葉にする |
| 4歳ごろ | ルールが分かりはじめ、友達との比較も始まる | 練習で楽しかった場面を聞く。順位より動きの話をする |
| 5歳ごろ | 結果を意識する。負けたくない、失敗が怖い | 気持ちを否定せず受け取る。当日の見通しを一緒に立てる |
3歳の「いや」は見通しのなさが中心で、5歳の「いや」は結果への不安が中心になりやすい。同じ言葉に同じ返しをしても、届かないことがあります。
我が家では、5歳の子に「順位はどうでもいいよ」と言ったら「よくない」と返されました。本人が気にしていることを親が軽く扱うと、それ以上話してくれなくなるんですよね。「最後だったらいやなんだね」と受け取るだけで、続きが出てくることがあります。
家でできる練習は「動きの種類」を増やす

「かけっこを速くする練習」を家でやろうとすると、たいてい親子ともにしんどくなります。指針が示す方向に合わせると、動きの種類を増やす遊びのほうが取り組みやすくなります。
| 動きの種類 | 家や公園でできること |
|---|---|
| 体のバランスをとる動き | 片足立ち、くま歩き、線の上を歩く、たかいたかい |
| 体を移動する動き | 走る、跳ぶ、しゃがんで進む、階段を登る、坂を駆け下りる |
| 用具を操作する動き | ボールを投げる・蹴る・転がす、風船をつく、なわを飛び越える |
| リズムに合わせる動き | 音楽に合わせて歩く・止まる、まねっこダンス |
かけっこで転びやすい子は、走る速さより「腕を振る」「体をまっすぐ保つ」といった土台の動きが関わっていることがあります。この土台は、くま歩きや片足立ちのような遊びで増えていきます。
大事なのは、練習にしないこと。 「10回やろう」ではなく、遊びの中で自然に入る形にします。指針も「自発的に取り組む様々な遊びを中心に」と書いています。
練習期間中は園でかなり動いています。家では逆に、ゆっくり過ごす日を作るほうが体調が持ちます。
9月の練習期間は暑さ対策が先

9月・10月の運動会は、まだ暑い時期に練習が重なります。ここは根性の問題ではなく、環境の数字で判断する領域です。
環境省の熱中症予防情報サイトは、暑さ指数(WBGT)に応じて、屋外や空調のない屋内での運動は、原則、中止や延期をするという考え方を示しています。
そして重要なのが、「生活の場における暑さ指数」です。環境省は、子どもの高さ(50cm)での暑熱環境を観測するため、通常観測の1.5mの高さの観測値と比較した情報を提供しています。子どもは大人より地面に近い環境にいるため、より厳しい暑熱条件にさらされる、という考え方に基づくものです。
つまり、大人が感じている暑さより、子どもの高さはさらに暑いということになります。
家庭側でできることは、次のあたりです。
- 前日の睡眠と朝食を確保する(睡眠不足・朝食抜きは避ける)
- 練習日は水筒を大きめにする。氷を入れる
- 帽子は必ず。首の後ろが隠れるものが向く
- 着替えを多めに持たせる
- 帰宅後に体温と機嫌を確認する
- 環境省のサイトで暑さ指数を確認し、心配な日は園に相談する
文部科学省も「学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き」を出しており、練習の実施判断の考え方が整理されています。園や学校の判断に疑問があるときは、これらの資料を手がかりに相談できます。
熱中症が疑われる症状(頭痛、吐き気、ぐったり、汗が出ない、意識がはっきりしない)が出たときの対処は、日本小児科学会の「こどもの救急」にまとめられています。
当日の持ち物と応援のコツ

当日に慌てないための持ち物を並べておきます。
| 子ども用 | 大人用 |
|---|---|
| 水筒(大きめ・氷入り) | レジャーシート |
| 帽子 | 日傘または帽子(園の指示を確認) |
| 着替え一式 | 保冷剤・冷たいタオル |
| タオル2枚 | 軽食・飲み物 |
| ばんそうこう | ゴミ袋 |
| 日焼け対策 | 折りたたみいす(可否は園の案内を確認) |
応援で気をつけたいのは、声の中身です。
- 走る前に「絶対勝てよ」と言わない
- 終わったあとに順位から話し始めない
- 「最後まで走ったね」「腕を振ってたね」と動きを言葉にする
- 泣いて出られなかった場合も、そのことを責めない
順位の話をまったくしないのも不自然なので、本人が話し始めたら受け取るくらいがちょうどいいと思います。5歳くらいになると自分で結果を分かっているので、親が先に評価する必要はありません。
よくある誤解とNGパターン

1. 毎日かけっこの特訓をする 指針が示すのは「自発的な遊び」と「多様な動き」です。特定の種目の反復は、幼児期の運動の目的として挙げられていません。
2. 順位で評価する 結果を先に評価すると、本人が話す余地がなくなります。動きや取り組みを言葉にするほうが、次につながります。
3. 「休ませたら負け」と考える 練習期間は園でかなり動いています。体調を見て休む日をつくるのは、逃げではなく調整です。
4. 暑さを気合いで乗り切ろうとする 環境省は暑さ指数に応じて運動の中止や延期を示しています。子どもの高さはさらに暑い環境です。数字で判断する領域です。
5. 他の子と比べる 「〇〇ちゃんはできてたよ」は、本人の意欲を下げる方向に働きやすい言い方です。
6. 当日だけ盛り上げる 練習期間の話を聞いていないと、当日の応援が本人の実感とずれます。帰り道の「今日は何やった?」の積み重ねが効きます。
こんなときは相談を

次のような場合は、園の先生や小児科に相談してください。
- 登園を強く拒むようになった(練習が理由と思われる場合も含む)
- 夜眠れない、食欲が落ちた、おなかを痛がる
- 特定の動きで体の痛みを訴える
- 練習後に発熱を繰り返す
- 転びやすさや動きのぎこちなさが目立つ
- 熱中症が疑われる症状(頭痛、吐き気、ぐったり、汗が出ない、意識がはっきりしない)
登園しぶりが強くなっている場合は、園と情報を共有するのが先です。 練習内容の調整や、参加の仕方を相談できることがあります。
動きのぎこちなさや転びやすさが気になる場合は、健診や小児科で相談できます。運動会をきっかけに気づくことも珍しくありません。
熱中症が疑われる症状が出たときは、涼しい場所へ移して水分を取り、症状が重い場合はすぐに医療機関へ。夜間・休日は♯8000が使えます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 運動会の練習を嫌がるとき、休ませてもいいですか?
体調や気持ちの状態次第です。練習期間は園でかなり体を動かしているので、調整として休む日をつくるのは選択肢になります。強く拒む状態が続く場合は、園と話して参加の仕方を相談するほうが解決に近づきます。
Q2. 家でかけっこの練習をさせるべきですか?
文部科学省の幼児期運動指針は、自発的な遊びを中心に多様な動きを身に付けることを重視しています。特定の種目の反復より、走る・跳ぶ・バランスをとる・投げるなど動きの種類を増やす遊びのほうが指針の方向に沿います。
Q3. 幼児は毎日どのくらい体を動かせばいいですか?
幼児期運動指針は「毎日、合計60分以上」を目安として示しています。外遊びの時間が長い幼児ほど体力が高い傾向がある一方、4割を超える幼児が1日1時間未満だという調査結果が背景にあります。
Q4. 9月の練習は暑さが心配です。どう判断すればいいですか?
環境省は暑さ指数(WBGT)に応じて、屋外や空調のない屋内での運動は原則中止や延期とする考え方を示しています。子どもの高さ(50cm)ではより厳しい暑熱条件になるため、大人の体感で判断しないほうがよいでしょう。
Q5. 「がんばれ」と言うのはよくないのでしょうか?
言葉自体が悪いわけではありませんが、それしか言わないと本人の気持ちを受け取る場面がなくなります。「最後だったらいやなんだね」のように、まず受け取る言葉を足すと会話が続きます。
Q6. 当日、泣いて出られませんでした。どう声をかければいいですか?
出られなかったことを責めない、が最初です。その日にやれたこと(会場まで来た、着替えた、応援した)を言葉にします。理由を追及するのは、落ち着いてからで構いません。
まとめ
- 幼児期運動指針は自発的な遊びと多様な動きを軸に置いている。特定種目の上達は目的として挙げられていない
- 時間の目安は毎日合計60分以上
- 「いや」の中身は年齢で違う。3歳は見通しのなさ、5歳は結果への不安
- 家ではバランス・移動・用具操作・リズムの4種類の動きを遊びで増やす
- 9月の練習は暑さ指数(WBGT)で判断。子どもの高さ50cmはより高温
- 応援は順位より動きを言葉にする
- 登園を強く拒む、体の痛み、熱中症の症状があれば相談
運動会は「本番でどうだったか」より、練習期間の会話のほうが記憶に残ります。帰り道に何をやったか聞くだけで、当日の応援が変わります。
※本記事は医療アドバイスではありません。気になる症状がある場合は必ず医師に相談してください