この記事の主な参照ソース
- 生命(いのち)の安全教育 指導の手引き(改訂版)(文部科学省) — 発達段階別の教材と指導内容
- 生命(いのち)の安全教育 指導の手引き(文部科学省) — 教材の趣旨と使い方
- 生命(いのち)の安全教育 指導資料(東京都教育委員会) — 実際の指導例
- 子どもの安全(警視庁) — 「いかのおすし」など防犯の基本
「性教育って、何歳から、何を話せばいいんだろう」。この問いに詰まってしまう理由は、たぶん「性」の話だと思っているからです。
入口は違います。まずはからだの安全の話から始まります。「ここは自分だけの大切な場所」「勝手に触られたら嫌だと言っていい」——これは、防犯の話であり、自分を大切にする練習でもあります。
文部科学省は「生命(いのち)の安全教育」の教材を作成し、公開しています。学校で使われるものですが、家庭でそのまま使える内容が含まれています。
入口は「からだの安全」|生命の安全教育とは

文部科学省の「生命(いのち)の安全教育」の教材は、発達段階に応じて6種類が用意されています。幼児期、小学校(低・中学年)、小学校(高学年)、中学校、高校、そして高校卒業直前・大学・一般向けです。文部科学省のウェブサイトからダウンロードできます。
幼児期の教材では、水着で隠れる部分は自分だけの大切なところという考え方で、プライベートゾーンを説明します。
指導の内容としては、次のようなことが扱われます。
- 自分の大切なところを知る
- 他人のプライベートゾーンを触らない、見ない
- 触られそうになったとき、いやなことをされたときの対処(逃げる、相談する、「やめて」とはっきり言う)
つまり、これは加害・被害の両方を防ぐための教育です。「触られない」だけでなく「触らない」もセットで扱われている点が重要です。
学校で扱われるようになったとはいえ、家庭で先に伝えておくことには意味があります。言葉の土台があると、学校での学びが入りやすくなるからです。
プライベートゾーンを、どう説明するか

「プライベートゾーン」という言葉自体を使う必要はありません。子どもに伝わる言い方を選びます。
| 年齢 | 伝え方の例 | 加えること |
|---|---|---|
| 2〜3歳 | 「ここは◯◯ちゃんの大事なところだよ」 | お風呂・着替えのときに自然に |
| 4〜6歳 | 「水着で隠れるところは、自分だけの大事なところ。人に見せたり触らせたりしないよ」 | 口も大切な場所であること |
| 小学校低学年 | 「自分の大事なところは、自分のもの。お友だちの大事なところも同じだよ」 | 他人のを触らない・見ない |
| 小学校中〜高学年 | 「いやだと思ったら断っていい。断られたらやめる」 | 写真・動画を撮らない、送らない |
伝えるタイミングは、お風呂・着替え・トイレの場面が自然です。改まって座らせて話すより、日常の流れに混ぜるほうが子どもは受け取りやすくなります。
言い方のコツを挙げます。
- 怖い話にしない — 「悪い人がいるから」と恐怖で覚えさせると、質問しづらくなります
- 例外を先に伝える — 「お医者さんが診るとき、お母さんが体を洗うときは大丈夫。でも、そのときも『いま診るね』って言うよ」
- からだの名称を普通の言葉として扱う — もじもじせずに扱うほうが、子どもも普通のこととして受け取ります
- 繰り返す — 1回では定着しません。年に何度か、成長に合わせて言い直します
教える3つの行動|「いや」「にげる」「はなす」

知識だけでは、いざというときに動けません。行動の形で覚えてもらうのがポイントです。
1. 「いや」と言う はっきり「やめて」「いや」と言っていい、と伝えます。相手が知っている人でも、年上でも、同じです。
2. にげる その場を離れていい、と伝えます。「失礼だから最後まで我慢する」は必要ありません。
3. はなす(大人に言う) これがいちばん大切です。「誰に話せばいいか」を具体的に3人決めておくとよいです。お母さん、お父さん、担任の先生、保健室の先生、祖父母——名前で挙げておきます。
そして必ず伝えておくこと。
「秘密だよ」と言われても、話していい
これは重要な一行です。加害者は「秘密にしよう」「言ったら怒られる」と口止めをすることがあります。大人との秘密は持たなくていい、と先に言っておいてください。
警視庁と東京都が考案した合言葉「いかのおすし」(ついていかない/のらない/おおごえを出す/すぐ逃げる/しらせる)も、同じ構造です。あわせて共有しておくと、外での行動につながります。
家でできる練習と声かけ

日常の中に、練習の機会があります。
1. 大人が先に許可を取る 「体を洗うね」「おむつ替えるよ」と声をかけてから触ります。子どもは、自分のからだについて聞かれる経験を通して、それが当たり前だと知ります。
2. ノックの習慣をつくる 子どもの部屋、トイレ、着替え中。大人がノックすることで、境界線があることが伝わります。
3. くすぐりを「やめて」で止める くすぐり遊びは、練習に使えます。子どもが「やめて」と言ったらその瞬間に止める。これを繰り返すと、「いやと言えば止まる」という体験になります。逆に、笑っているからと続けると、「言っても止まらない」を学ばせてしまいます。
4. ハグやキスを強要しない 親戚に「おじいちゃんにぎゅーして」と促す場面があります。本人が嫌がったら無理にさせない。握手やハイタッチでも十分です。
5. 相談できる大人を3人決める 「困ったことがあったら、この3人の誰かに言ってね」と名前を挙げておきます。1人だと、その人が原因のとき行き場がなくなります。
6. 定期的に聞く 「今日、いやだったことある?」を習慣にします。答えが「ない」でも構いません。聞かれる経験があることに意味があります。
打ち明けられたときの受け止め方

子どもが何かを話してくれたとき、最初の30秒が大切です。
やること
- 落ち着いて聞く — 動揺が伝わると、子どもは「言わなければよかった」と思います
- 話してくれたことを認める — 「話してくれてありがとう」「よく言えたね」
- 子どもを責めない — 「なんで逃げなかったの」「どうしてついて行ったの」は言いません
- 問い詰めない — 詳細を何度も聞き出そうとしない。記憶が混乱することがあります
- 記録する — いつ、どこで、誰が、何を、と子どもが話した言葉のまま書き留めます
- 相談する — 学校、園、自治体の相談窓口、警察に相談します。判断を家庭だけで抱えないでください
避けること
- 「気のせいじゃない?」と打ち消す
- 「誰にも言わないでおこう」と口止めする
- 加害者とされる人物にその場で直接問いただす
- SNSに書く
文部科学省の「生命(いのち)の安全教育」の指導の手引きでは、教育の実施にあたって相談への対応が重視されています。学校でも同じ構えが求められている、ということです。
一人で抱え込まないでください。専門の窓口があります。
※本記事は医療アドバイスではありません。気になる症状がある場合は必ず医師に相談してください
よくある誤解とNG例

誤解1:早く教えると刺激になる 文部科学省の教材は幼児期版から用意されています。伝える内容は「自分の大切な場所」と「いやなときの対処」であり、性的な内容を先取りするものではありません。
誤解2:知らないほうが安全 知らない子どもは、何が起きているか説明できず、相談もできません。言葉を持っていることが、相談できる力になります。
誤解3:女の子に教えるもの 教材は男女を問わず全員を対象としています。「触らない・見ない」を含む内容であり、加害を防ぐ意味でも全員に必要です。
誤解4:学校でやるから家では不要 学校の授業は限られた時間で行われます。家庭で日常的に繰り返すことで定着します。学校と同じ言葉を使うと、子どもの中でつながります。
NG例:「知らない人に気をつけて」だけで終える 被害は、まったくの他人から起きるとは限りません。「知っている人でも、いやなことをされたら言っていい」まで含めて伝えてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 性教育は何歳から始めればいいですか?
文部科学省の「生命(いのち)の安全教育」の教材は幼児期版から用意されています。家庭では、お風呂や着替えの場面で「ここは大事なところ」と伝えるところから始められます。年齢に応じて言葉を変えながら繰り返してください。
Q2. プライベートゾーンとは、体のどこを指しますか?
水着で隠れる部分と、口です。文部科学省の幼児期向け教材では、「水着で隠れる部分は自分だけの大切なところ」という考え方で説明されています。
Q3. 「怖がらせてしまうのでは」と心配です。
恐怖で教える必要はありません。「大切な場所だから、自分で守るんだよ」という肯定的な言い方で十分です。むしろ、怖い話にすると質問しづらくなり、相談されにくくなります。
Q4. お医者さんの診察や、親が体を洗うときはどう説明しますか?
例外を先に伝えておきます。「お医者さんが診るとき、お家の人が体を洗うときは大丈夫。でも、そのときも『いま診るね』と言うよ」と説明し、実際に大人が声をかけてから触るようにします。
Q5. 「秘密にしてね」と言われたら、と子どもに聞かれました。
大人との秘密は持たなくていい、と伝えてください。「秘密だよ」と言われても話していい、話しても怒られない、という一言を先に置いておくことが、相談への道になります。
Q6. 相談できる大人は、何人決めておけばいいですか?
3人程度が目安です。保護者だけでなく、担任の先生、保健室の先生、祖父母など、家庭外の大人も入れておいてください。1人だけだと、その人が関わる場面で行き場がなくなります。
Q7. 子どもから打ち明けられたら、まず何をすればいいですか?
落ち着いて最後まで聞き、「話してくれてありがとう」と伝えます。責めない、問い詰めない、口止めしない。子どもが話した言葉のまま記録し、学校・園・自治体の相談窓口・警察などに相談してください。家庭だけで判断を抱えないことが大切です。
まとめ
- 性教育の入口はからだの安全。文部科学省の「生命(いのち)の安全教育」に幼児期版がある
- プライベートゾーンは水着で隠れる部分と口。「自分だけの大切なところ」と伝える
- 「触られない」だけでなく「触らない・見ない」もセットで扱う
- 教える行動は「いや」「にげる」「はなす」の3つ
- 「秘密だよ」と言われても話していいを先に伝える
- くすぐりを「やめて」で止める練習、ノック、事前の声かけが日常の練習になる
- 打ち明けられたら、落ち着いて聞き、責めず、相談窓口につなぐ
今夜のお風呂で「ここは大事なところだよ」と一言。そこから始められます。
参考文献
- 文部科学省「生命(いのち)の安全教育 指導の手引き(改訂版)」
- 文部科学省「生命(いのち)の安全教育 指導の手引き」
- 文部科学省「令和5年度「生命(いのち)の安全教育」の取組に関する参考事例集」
- 東京都教育委員会「生命(いのち)の安全教育 指導資料」
- 千葉県教育委員会「生命(いのち)の安全教育に関連する学習内容等一覧」
- 警視庁「子どもの安全」