この記事の主な参照ソース
- 「肘内障」症状・病気をしらべる(日本整形外科学会) — 症状・病態・診断・治療の一次情報
- 肘内障(日本臨床整形外科学会) — 好発年齢と整復の実際
- こどもの救急(日本小児科学会 監修) — 夜間・休日の受診判断
- こどもの事故防止ハンドブックについて(こども家庭庁) — 年齢別の事故予防
道路に飛び出しそうになった子の手を、とっさに引っ張った。そのあと、腕をだらんと下げたまま動かさなくなって泣いている——。
肘の骨が折れたのではないかと青ざめますが、多くの場合は肘内障(ちゅうないしょう)です。子どもの整形外科では珍しくないけがで、処置も短時間で済みます。ただし、骨折と見分けがつかない場面があるので、自己判断で治そうとしないことが大切です。
この記事は、日本整形外科学会と日本臨床整形外科学会の解説をもとに、家庭で判断できる範囲を整理したものです。
肘内障とは|「腕を下げたまま動かさない」が典型サイン

日本整形外科学会の解説では、肘内障は肘の靱帯から肘の外側の骨(橈骨頭)がはずれかかることによって起こるとされています。多くは5歳以下の子どもにみられ、日本臨床整形外科学会は特に2〜4歳くらいの幼児に多いとしています。
典型的な症状はこうです。
- 手を引っ張られた後などに、痛がって腕を下げたままで動かさなくなる
- 肘をやや曲げた状態で下げたままにして、動かそうとしない
- 腕を持ち上げようとすると強く嫌がる、泣く
- 見た目の腫れや変形は目立たないことが多い
子どもは「肘が痛い」とは言わず、「手が痛い」「肩が痛い」と訴えたり、単に泣くだけだったりします。痛がる場所と原因の場所がずれるので、腕全体を見て判断します。
食事のときに使うスプーンを持たない、抱っこのときに片腕を上げない、といった生活動作の変化も手がかりになります。
どんな場面で起きるか|引っ張るだけとは限りません

名前のとおり、手を引っ張ることが最も多いきっかけです。ただ、それだけではありません。
| 年齢の目安 | 起きやすい場面 | 気をつけたいこと |
|---|---|---|
| 1〜2歳ごろ | 抱き上げるとき手首を持つ、寝返りで腕が体の下に入る | 抱き上げは脇の下から。寝かせるときの腕の位置を確認 |
| 2〜4歳ごろ(最も多い) | 手をつないで急に引く、両手を持ってぐるぐる回す遊び、転びそうな子をとっさに引き上げる | 「手をつなぐ」ではなく「手首より上を支える」意識にする |
| 5歳ごろ | 遊具での動作、きょうだいとの引っぱり合い | 引っ張り合う遊びのルールを決める |
日本臨床整形外科学会は、幼児期の間は繰り返すこともあるが、成長とともに発症することはなくなるとしています。日本整形外科学会も、手を引っ張られることで繰り返すことがあるため学童期になるまで注意するよう記しています。
ここがポイントなんですが、とっさの安全確保で引っ張るのは避けられない場面があるということです。車道に出そうな子を止めるとき、腕を引くのは正しい判断です。そのうえで、日常のなかで引っ張る回数を減らしていく。この進め方なら無理がありません。
病院での処置|整復とレントゲンの意味

治療は徒手整復です。医師が肘を軽く曲げながら橈骨頭を押さえ、前腕を回すと、クリックする感触とともに元に戻ります。器具も麻酔も使わず、多くの場合は数十秒で終わります。
整復がうまくいくと、子どもはしばらくして腕を使い始めます。泣いていたのが嘘のように、そのままおやつに手を伸ばすこともあります。日本整形外科学会は、整復後は通常通り腕を使用して問題ないとしています。
レントゲンについてです。日本整形外科学会は、診断にあたってレントゲン検査で骨や関節に異常がないことを確認する、つまり骨折や脱臼と区別することを挙げています。「肘内障だと思ったのに撮影された」と感じるかもしれませんが、これは骨折を見落とさないための手順です。
受診先は、整形外科が基本です。小児科で対応してくれる医療機関もありますが、レントゲンが必要になる可能性を考えると整形外科が確実です。夜間や休日で迷うときは、こども医療電話相談 #8000 で相談できます。
そして重要なのが、家庭で整復を試さないことです。ネット上には手順を紹介する情報がありますが、骨折していた場合に状態を悪化させます。医師が骨折を除外したうえで行う処置である、という前提を外さないでください。
骨折・脱臼との見分け方と、受診の目安

家庭で完全に見分けることはできません。ただ、骨折を強く疑うサインは知っておく価値があります。
| 見るところ | 肘内障で多い | 骨折を疑うサイン |
|---|---|---|
| 腫れ | 目立たないことが多い | はっきり腫れる、熱を持つ |
| 変形 | ない | 肘や前腕の形が明らかにおかしい |
| きっかけ | 手を引っ張った、ひねった | 高い所からの転落、強くぶつけた |
| 痛がり方 | 動かさなければ落ち着いていることも | 動かさなくても強く痛がる、触れるだけで泣く |
| 皮膚 | 変化なし | 内出血、色が変わる、傷がある |
次のときは、その日のうちに受診してください。
- 腕を動かさない状態が続く
- 明らかな腫れ、変形、内出血がある
- 転落や強い衝突のあとに動かさなくなった
- 発熱を伴う、腕が赤く熱を持っている
- いったん動かせるようになったのに、また動かさなくなった
すぐに救急受診を検討する状況は、手や指が白い・冷たい・しびれている(血流や神経の問題が疑われる)、開放創がある、意識や全身状態がおかしいときです。
※本記事は医療アドバイスではありません。気になる症状がある場合は必ず医師に相談してください
繰り返さないための手のつなぎ方

肘内障は幼児期に繰り返すことがあります。回数を減らす工夫を挙げます。
- 抱き上げるときは脇の下から — 手首や前腕を持って持ち上げるのは、最も起こりやすい形です。
- 手をつなぐときは、手のひら全体を包む — 指先だけをつまむと、いざというときに引っ張る力が肘に集中します。
- 「両手を持ってぐるぐる回す」遊びをやめる — 楽しい遊びですが、負荷が肘にかかります。
- 服の袖を引かない — 袖を引くのも、腕を引っ張るのと同じです。
- 保育園・祖父母と情報を共有する — 一度起きた子は繰り返すことがあると伝えておくと、関わる大人が意識してくれます。
- 転倒しそうな場面では、体を支える — 腕ではなく胴を支えるほうが安全です。
一度整復してもらったあとに再発した場合も、再び医療機関で処置を受けてください。「前と同じだから自分でできる」は避けてください。
よくある誤解とNG例

誤解1:腫れていないから大したことはない 肘内障は腫れが目立たないのが特徴です。腫れの有無で判断せず、腕を動かさない状態が続くかどうかで受診を決めてください。
誤解2:ネットの手順を見れば自分で治せる 骨折を除外していない状態で整復を試みると、状態を悪化させるおそれがあります。医療機関で行う処置です。
誤解3:一度なったら一生繰り返す 幼児期の間は繰り返すことがありますが、成長とともに発症しなくなるとされています。学童期になるまでは注意が必要、という位置づけです。
誤解4:痛がる場所が肘でないから肘内障ではない 子どもは「手が痛い」「肩が痛い」と訴えることがあります。訴えの場所だけで否定せず、腕全体の動きを見てください。
NG例:「大げさに泣いているだけ」と様子見を続ける 動かさない状態が長引くと、痛みで腕をかばう習慣がつくことがあります。半日以上動かさないなら受診してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 肘内障は何歳くらいの子に多いですか?
日本整形外科学会は多くは5歳以下の子どもにみられるとしており、日本臨床整形外科学会は特に2〜4歳くらいの幼児に多いとしています。幼児期の間は繰り返すこともありますが、成長とともに起こらなくなるとされています。
Q2. 病院ではどんな処置をしますか?
徒手整復を行います。肘を軽く曲げて橈骨頭を押さえながら前腕を回すと、クリックする感触とともに整復されます。あわせて、レントゲン検査で骨や関節に異常がないことを確認し、骨折や脱臼と区別します。
Q3. 整復のあと、腕をかばっています。大丈夫でしょうか?
整復後は通常通り腕を使用して問題ないとされていますが、痛みの記憶でしばらくかばう子もいます。数十分から数時間で自然に使い始めることが多いです。半日たっても動かさない、腫れてきた場合は再度受診してください。
Q4. 家で自分で治すことはできますか?
やめてください。骨折や脱臼が隠れている可能性があり、整復を試みると悪化させるおそれがあります。整復は、骨折を除外したうえで医療機関が行う処置です。
Q5. 何科を受診すればいいですか?
整形外科が基本です。レントゲン撮影が必要になる可能性があるためです。かかりつけの小児科で対応してもらえる場合もあります。夜間・休日で迷うときは、こども医療電話相談 #8000 に相談してください。
Q6. 繰り返さないために、家庭でできることはありますか?
抱き上げるときは手首や前腕ではなく脇の下から支える、手をつなぐときは手のひら全体を包む、両手を持って回す遊びをしない、袖を引かない、といった工夫が有効です。保育園や祖父母にも共有しておくと、関わる大人全員で防げます。
Q7. 骨折との違いは家庭で分かりますか?
完全な判別はできません。ただし、はっきりした腫れ、肘や前腕の変形、内出血、動かさなくても強く痛がる、転落や強い衝突があった、といった場合は骨折を疑って受診してください。
まとめ
- 肘内障は、肘の靱帯から橈骨頭がはずれかかって起こる。多くは5歳以下、特に2〜4歳に多い
- 典型サインは「腕を下げたまま動かさない」。腫れや変形は目立たないことが多い
- 治療は徒手整復。レントゲンは骨折・脱臼を除外するために行う
- 家庭で整復を試さない。骨折があった場合に悪化させる
- 腫れ・変形・内出血・強い衝突があれば骨折を疑って受診
- 予防は「脇の下から抱き上げる」「手のひら全体でつなぐ」「両手を持って回さない」
とっさに腕を引くのは、安全のために必要な場面もあります。日常の抱き方・つなぎ方を変えるだけで、回数はかなり減らせます。
参考文献
- 日本整形外科学会「「肘内障」症状・病気をしらべる」
- 日本臨床整形外科学会「肘内障」
- こどもの救急(日本小児科学会・厚生労働省研究班 監修)「こどもの救急」
- 日本小児科学会「Injury Alert(傷害速報)」
- こども家庭庁「こどもの事故防止ハンドブックについて」
- 東京消防庁「救急搬送データからみる日常生活の事故」