この記事の主な参照ソース
- 産後ケア事業を利用したい方(こども家庭庁) — 対象と利用方法
- 産前・産後サポート事業/産後ケア事業ガイドライン(こども家庭庁) — 事業の枠組み
- 母子保健(こども家庭庁) — 産婦健診の位置づけ
- 健康づくりのための睡眠ガイド2023(厚生労働省) — 睡眠の確保
朝、子どもを抱き上げようとして、腰に電気が走った。首を回すと右側が鳴る。肩は、もう常に痛い。
でも受診する時間はないし、「産後だからしょうがない」と言われるのも分かっている。だから何もしないまま、また今日も抱っこする。
……こういう状態、けっこう長く続けてしまいますよね。わたしも「そのうち治る」と言い続けて半年かかりました。
産後の体の痛みは、姿勢の負荷が毎日積み重なる性質のものです。だから「休めば治る」場面が少ない。ここでは姿勢の見直しと、公的に用意されている相談先を整理します。診断や治療の話ではなく、相談にたどりつくまでの整理です。
産後に負荷が集中する場面

痛みが出やすい場面は、だいたい4つに絞られます。
| 場面 | 起きている姿勢 | 負荷が出やすい部位 |
|---|---|---|
| 抱っこ・抱き上げ | 前かがみ、片側に偏る | 腰、肩、手首 |
| 授乳 | 背中を丸めて長時間固定 | 首、肩、背中 |
| おむつ替え | 低い位置で前屈 | 腰 |
| 沐浴 | 中腰で片手支え | 腰、肩 |
共通しているのは、同じ姿勢を長く保つか、低い位置で前屈するという点です。しかも1日に何度も繰り返されます。
そして重要なのが、回復の時間が取れないという条件です。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、年齢にあわせた十分な睡眠時間の確保を目指すことを示していますが、産後はそれが最も難しい時期に当たります。
つまり、負荷が積み重なる一方で、回復の側が削られている状態です。姿勢の改善と、休息の確保を同時に考える必要があるのは、この構造のためです。
抱っこと抱き上げの見直し

いちばん回数が多く、いちばん負荷が大きいのが抱き上げです。
見直すポイントは3つです。
1. 膝を使う 腰を曲げて上体だけで持ち上げると、腰に負荷が集中します。膝を曲げてしゃがみ、体を近づけてから持ち上げる形にします。
2. 体に近づける 腕を伸ばした位置で支えると、同じ体重でも負担が大きくなります。胸の近くまで引き寄せてから立ち上がります。
3. 左右を交代する 片側で抱く癖がつくと、負荷が偏ります。「玄関では右、部屋では左」のように場面で決めておくと、意識しなくても交代できます。
抱っこひもを使う場合は、ベルトの位置と締め具合で変わります。肩だけで支える形になっていると、肩と首に集中します。腰ベルトのあるタイプは、腰骨の上で締めて体重を分散させる作りになっています。
抱っこひもの調整方法は製品ごとに違うので、購入店や自治体の相談窓口で一度見てもらうと確実です。自己流の装着で肩に集中しているケースがよくあります。
授乳・おむつ替え・沐浴の高さを変える

姿勢を変えるより、物の高さを変えるほうが確実です。
| 場面 | 変えること |
|---|---|
| 授乳 | クッションや丸めたタオルで赤ちゃんを持ち上げ、胸の高さに近づける。背中の後ろにもクッションを入れて丸まりを減らす |
| おむつ替え | 床でなく腰の高さの台を使う。難しい日は座って行う |
| 沐浴 | 床置きの浴槽ではなく、シンクや安定した台の上を使う(安全を確認できる範囲で) |
| 寝かしつけ | ベビーベッドの床板の高さを調整する。低すぎると前屈が深くなる |
| 抱っこひもの着脱 | 座った状態で装着してから立ち上がる |
授乳は、時間が長いぶん効果が大きい場面です。 背中が丸まった姿勢で20〜30分を1日8回繰り返すと、首と肩に相当な時間がかかります。クッションを1つ足すだけで姿勢が変わるので、試す価値があります。
うちは授乳クッションを買ったのに「毎回出すのが面倒」で使っていませんでした。授乳する場所に置いたままにすると決めてから、やっと使うようになりました。
使える公的な相談先

「病院に行くほどではない」と思っている段階でも、相談できる場が用意されています。
産後ケア事業 こども家庭庁の案内では、出産後1年以内のママと赤ちゃんを対象に、産後も安心して子育てができるよう、心身のケアや育児のサポート等を行う事業とされています。母子保健法の改正により市町村の努力義務として規定され、退院直後の母子に対して心身のケアや育児のサポート等きめ細かい支援を実施する(利用期間は原則7日以内)ものです。
宿泊型・日帰り型・訪問型など、自治体によって形が異なります。「体を休めたい」という理由で使える制度です。
産婦健診 こども家庭庁の資料では、産後2週間、産後1か月など出産後間もない時期の産婦に対する健康診査は、母体の身体的機能の回復や授乳状況及び精神状態の把握等を行い、産後の初期段階における母子に対する支援を強化するものと位置づけられています。
身体の回復を確認する場として設定されているので、痛みのことを話してよい場面です。
| 相談先 | 相談できること |
|---|---|
| 産後ケア事業 | 休息、育児のサポート、心身のケア |
| 産婦健診(産後2週間・1か月) | 身体の回復状況、授乳、精神状態 |
| 市町村の母子保健担当・保健センター | 使える制度の案内、訪問の相談 |
| 産婦人科 | 産後の身体に関する相談 |
| 整形外科 | 痛みが続く・強い場合の相談 |
どこに行けばいいか分からない場合は、市町村の母子保健担当に電話するのがいちばん早いです。 使える制度を案内してもらえます。
やりがちなNGパターン

1. 「産後だから仕方ない」で放置する 痛みが続く状態は、相談の理由になります。産婦健診は身体の回復を確認する場として設定されています。
2. 片側だけで抱き続ける 負荷が偏ります。場面ごとに左右を決めておくと交代しやすくなります。
3. 自己流のストレッチや運動を続ける 産後の身体の状態は個人差が大きく、時期によって適した内容も変わります。痛みがある場合は、始める前に相談してください。
4. 痛みを我慢して抱っこの回数を維持する 抱き上げの動作を変える、高さを変える、頼る、のどれかで回数か負荷を減らす形を探します。
5. 「相談先は病院だけ」と思っている 産後ケア事業、産婦健診、市町村の母子保健担当があります。病院に行く前に使える窓口があります。
6. 睡眠を後回しにする 回復の側が削られていると、姿勢を直しても改善しにくくなります。睡眠の確保も対策の一部です。
こんなときは受診を

次のような場合は、医療機関に相談してください。
- 安静にしていても痛みがある
- 足に痛みやしびれ、力が入りにくい感じがある
- 排尿や排便に変化がある
- 発熱を伴っている
- 痛みで抱っこや日常動作ができない
- 痛みが日ごとに強くなっている
- 気持ちが沈む日が続いている、眠れない
発熱を伴う痛み、足の症状、排尿・排便の変化は、早めに受診してください。
また、気持ちの落ち込みや眠れない状態も相談の対象です。こども家庭庁の資料では、産後ケア事業は産婦の心身の不調や産後うつ等を防ぐため、母子への心身のケアや育児サポートを行うものと位置づけられています。身体の痛みと気持ちの状態は切り離せないので、両方まとめて相談して構いません。
「これくらいで受診していいのか」と迷う段階が、いちばん相談しやすい段階です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 産後の腰痛はいつまで続きますか?
期間は個人差があり、一律には言えません。痛みが続いている、強くなっている、安静にしていても痛むといった場合は、期間を待つのではなく相談してください。
Q2. 産後ケア事業は誰が使えますか?
こども家庭庁の案内では、出産後1年以内のママと赤ちゃんを対象に、心身のケアや育児のサポート等を行う事業とされています。利用期間は原則7日以内で、内容は自治体によって異なります。
Q3. 「体を休めたい」という理由で産後ケアを使えますか?
産後ケア事業は退院直後の母子に対して心身のケアや育児のサポート等を行うものと位置づけられています。まずは市町村の母子保健担当に、利用できる形を確認してください。
Q4. 抱っこひもの調整はどこで見てもらえますか?
購入した店舗や、自治体の子育て支援窓口・子育て支援センターで相談できる場合があります。自己流の装着で肩に負荷が集中しているケースがあるため、一度見てもらう価値があります。
Q5. 産後のストレッチや運動はいつから始められますか?
産後の身体の状態は個人差が大きく、時期によって適した内容も変わります。痛みがある場合は、始める前に産婦人科や整形外科で相談してください。
Q6. 産婦健診で痛みの相談をしてもいいですか?
産婦健診は母体の身体的機能の回復や授乳状況、精神状態の把握等を行う場として位置づけられています。身体の痛みも相談してよい場面です。
まとめ
- 産後の痛みは抱っこ・授乳・おむつ替え・沐浴の4場面に集中する
- 共通するのは同じ姿勢の長時間保持と低い位置での前屈
- 抱き上げは膝を使う/体に近づける/左右を交代するの3点
- 姿勢を変えるより物の高さを変えるほうが確実
- 授乳は時間が長いぶん、クッションで高さを上げる効果が大きい
- 産後ケア事業(出産後1年以内・原則7日以内)と産婦健診が公的な相談の入口
- どこに行くか迷ったら市町村の母子保健担当に電話
- 安静時の痛み、足の症状、発熱、排尿排便の変化があれば受診
「そのうち治る」で半年たつ前に、高さを1つ変えて、電話を1本かけてみてください。制度の側は、使われる前提で用意されています。
※本記事は医療アドバイスではありません。気になる症状がある場合は必ず医師に相談してください